アルバイトの採用が決まった!
これで念願の『社会適合者』にまた一歩近づいた!
バックレ地獄――30回は面接をバックレた
僕は高校入学から数えておよそ6年もの間、無職、ニート、引きこもり生活を送ってきた。
ずっとバイトしようとは思っていたけど、行動に移せなかった。
バイト歴は、短期で二回(年賀状仕分け・パン工場)、長期で一回(コンビニ)。
僕は、21年間まともに働いたことがない。
高校の頃は、部活も勉強もしないで暇を持て余していたのに、バイトしなかった。
ひたすら寝るかネットかスマホゲームをしていた。
浪人時代も、勉強に集中できず時間があったからバイトしようかと思ったけど、結局怯んでしまった。
「大学に入れば何かが変わるはずだ!」と夢見ていたけど、一向にその気配は訪れなかった。
大学に行って、授業を受けたふりして図書館で時間を潰し、家に帰ってネットして寝るの毎日。
バイトしようと思い立っても、対人恐怖症をこじらせてしまい、面接のバックレを繰り返した。
求人サイトを見る
↓
応募する
↓
履歴書を書く
↓
当日バックレ
↓
落ち込んで死にたくなる
↓
また求人サイトを見る
こんな何の生産性もないサイクルを何十回も回していた。
それどころか、バックレするたびに働ける場所がなくなっていき、履歴書代や証明写真代、交通費が飛んでいき、生産性はむしろマイナスに振り切っていた。
お金を稼ごうとするほどお金が無くなっていく。
足掻けば足掻くほどに終焉が迫りくる、蟻地獄に放り込まれたような感覚だった。
気分がすぐれない日は、下手したら一日中求人サイトを見て、応募すらできずにパソコンの前で硬直していた。
僕は、大学生という肩書を持った引きこもり、すなわち『大学生ニート』であった。
大学に行かず、バイトもせず、のうのうと家に引きこもり、一日中不機嫌に過ごし、飯だけは消費する。
家族からしたら迷惑千万の疫病神である。
毎日が自殺日和だった
つい最近まで僕は、毎日死のうか迷っていて、そのきっかけを探していた。
自殺の踏ん切りがつくタイミングをうかがっていた。
いつもは恐怖心で死ぬことに躊躇してしまうが、怒りに任せれば死ねる気がした。
怒りは死への原動力になる。
イラつくときは死に近い感覚がある。
怒りがこみ上げてきたときに、自殺することでそれを発散する。
自分の身体を空に投げ出し、重力にその全てをゆだねることであっさり逝けるんじゃないか。
そんなこと思いながら、寝返りを打ち天井を見つめるという月並みな結末に至る。
飛び降り自殺を実行しようとしたこともある。
「もうこれ以上苦しみたくないから……」
飛び降りに適した場所を探し歩き、ようやく見つけた。
失敗する可能性もある高さだったが、他に見当たらないからと妥協した。
真下に歩行者が行き交う中、手すりに寄りかかって、真上に広がる青を目指した。
――結局、人生を諦めきれずに、肩を落として帰路に就いた。
現実から無我夢中の逃避行の末に、三途の川を渡りかけたのだ。
何をしても死ぬことに結び付けてしまう
僕は、努力することと自殺することを天秤にかけていた。
「努力してつらい気持ちになったり嫌な思いするくらいなら死んでやる!」
って死に逃げようとした。
二択の選択問題が課されたとき、その場限りの安心を得るために楽な方へと逃げ続けた末路。
その死ぬ準備として、死化粧よろしく髪を整え髭を剃り、体中の毛をなくし、醜いながら少しでもマシに見えるようにしようと思った。
落下して血まみれで地に着いたとき、病院へ搬送されるとき、解剖されるとき。
僕の命尽きた姿を目撃する人に、認められたかった。
生前は果たされなかった承認を欲しがった。
終わった後でいいから。
あの世から、
「誰でもいいからこの悲哀に満ちた遺体に寄り添ってあげて……」
と取り乱した。
僕は、美しい遺体になりたかった――。
自分の死後の見た目に納得して死んでゆきたい。
そしたらが成仏できる気がするから。
否、死ぬ間際に幾分か気持ちが和らげばそれでよかった。
死に様なんかにこだわっても仕方ないのに、そんなふうに考えていた。
父「親より先に死ぬのは一番の親不孝だ」
前に食事中の会話で、何がきっかけだったかは定かでないが、
「親より先に死ぬくらいならプー太郎になっても、犯罪者になってもいい。それくらい親を残して子が死ぬのは親不孝なんだ」
と父が言った。
その時僕は、
「生きててほしいってことなのかな。ごめん、毎日死ぬことばかり考えてる。明日にでも決行してしまうかもしれない。素直になれなくてごめんなさい……」
そう言い残して死のうかと思った。
親に自殺願望があると告白したことはないため、おそらくテレビのニュースか何かの影響だろう。
ちょうど自分が死にたいと思っていた時期だったこともあり、「まさか希死念慮が伝わってしまったのか?」と不安になった。
父は死ぬくらなら引きこもりでもいいと言ってくれたが、僕自身がそれを許せなかった。
飼われる生活は人としての尊厳を守れない。
引け目を感じながら、飼い主の顔色をうかがう人生なんて嫌だ。
そんなの死んだ方がマシだとさえ思った。
美容師にバイトしてないことを馬鹿にされた
明日から大学始まるから2か月半ぶりに髪切って良い気持ちで新年度迎えようと思ってたのに、美容師に引きこもってる事とかバイトしてないことを馬鹿にされて気分悪い。見せた写真と全然違う髪型にされたし最悪。
— みぃ (@mukiryoku7) 2021年4月7日
遡ること二か月前。
美容院に行く際、僕は指名料が惜しくて毎回指名しないで予約する。
その日も初対面の美容師さんが担当だった。
挨拶やカウンセリングを終え、カットが始まると、僕の苦手な世間話が始まった。
職業や普段してることを根掘り葉掘り聞かれ、うんざりしていた。
あまり日々が充実していないと、積極的に自分の内面を開示する気になれない。
つまり、秘密主義者になってしまうのだ。
毎回質問に対してぼかして回答するのだが、その時の美容師はしつこく聞いてきた。
「オンライン授業どうですか?」
と聞かれ、
「通学しなくていいので楽ですね。単位も取りやすいですし」
と言ったら、
「え? めっちゃ楽そうじゃないですか! 俺も大学行けばよかった~」
と僕が苦しんでいることも知らずに能天気な反応。
なぜ神経を逆なでするようなことを言うのだろう。
その後、バイトしてるか聞かれ、してないと答えた。
「めっちゃ暇じゃありません? 何してるんですか?」
との問いに、
「アニメ見てるか寝てます」
と答えた。
すると彼の笑い声が聞こえ、
「マジでクズじゃないですか!」
という思わず耳を疑うような言葉が飛んできた。
向こうは“いじり”のつもりで言ったのか知らないが、僕からしたら一方的にコケにされたとしか思えない。
「仲良くもない間柄でよくもまあこんな無礼を働けるな……」と呆れ、僕はそこから口をつぐんだ。
とても不愉快な体験だったが、残念ながら彼の言っていることは、この日本に住むおおよその人間が抱いている考えなのだ。
「男なら働いて当然。男なら嫁や子供を養ってこそ一人前。ましてや自分一人も養えないなんて終わってる!」
世間は僕らニートに対しては冷たく、人権を認めようなどとは決して思わない。
『クズ』『穀潰し』『社会のお荷物』
このような罵倒の数々をいつ投げつけられても不思議ではない。
僕は、一日中寝腐って、たまにちょっと家の手伝いをしておこずかいをもらうという生活をしていた。
今だから言えるが、彼の言うとおり、僕は間違いなくクズだった。
赤の他人でさえついクズ呼ばわりしてしまうような、無産の金食い虫。
産業廃棄物を排出しない虫の方がよほど社会に歓迎されていただろう。
僕はそんな絶対的な軽蔑の対象から抜け出し、晴れて社会の一員となったのだ。
奇跡的に受かった!
正直受かるとは思っていなかった。
面接の受け答えはちゃんとできたから、それだけ見たら受かると確信できる。
だが、僕が今回面接を受けた店は、二か月前にバックレた店の系列店なのだ。
応募の電話をしたとき、コールセンターの女性に
「以前面接をキャンセルされてますよね……?」
と言われた。
僕は咄嗟に
「そうでしたっけ?」
ととぼけたが、即座に具体的な店名とバックレた日付を伝えられたため、
「そういえばそうでした……」
と認めるしかなかった。
こんな背景があったから、てっきり僕は落とされるものだと思ってギャンブル感覚で受けに行ったのだが、何の間違いか受かってしまった。
一度の失敗を許し、再挑戦の道を与えて下さったこの企業様に深い感銘を受けた。
大学を卒業するまでここで働き続けたいと思う。
もしやめたくなっても、前みたいにバックレたりせず、ちゃんと事前にその旨を伝えたりして礼儀をわきまえるつもりだ。
働くことが楽しみ
何度死のうと思ったことか。
ほんとは生きたくて仕方なかったけど、働いて恥をかくくらいなら死んでやるって思ってた。
それほどまでに「恥をかかないこと」にこだわっていた。
「馬鹿にされたくない……。笑われたくない……。見下されたくない……」
僕はそんな欲求が人一倍強い、プライドの檻に閉じ込められた囚人だった。
そこから脱獄できたのは、考え方を根っこから変え、行動したから。
やっぱり、死ななくて良かったなって思う。
前回の労働から、約10か月ぶりに社会との接点を持つことになる。
どんなことが待ち受けているのか、想像するだけで胸が高鳴る。
ほんの少しの緊張と、多くを占める高揚感。
あんなに忌避していた「労働」が、今ではやりたくて仕方がないような代物に変わった。
これから何が起きても楽しめる自信がある。
死の淵に立たされて終わりを覚悟して、それでも生き延びたから。
どん底から這い上がった僕だから。
土砂降りの雨の中でこそ、晴れの日のような眩しさで輝いていたい。
追記:アマギフ1000円分を頂いた!
母親がポストに届いていた封筒を見て訝しんでいました。
何だろうと思って覗き込んでみると、なんとそれは僕への贈り物だったのです!
すぐに封を切って中身を取り出すと、
『バイト面接お疲れ様!』
という温かいメッセージとともに、1000円分のアマゾンギフト券が飛び出してきました!
(個人情報保護のためメッセージはお見せできません)
突然のサプライズに思わず変な声が出ました。
悲願のバイト面接という課題を突破し、こんな素敵なプレゼントまでされて、頑張った甲斐があったというものです。
僕は本当に幸せ者だな~。
ツイッターの方でも言いましたが、改めてお礼申し上げます。