日記

30回以上バックレを繰り返した末に、ようやくバイト面接に行けました!

待ちに待ったこの日がやってきた。

なんと……アルバイトの面接に行くことができたのだ!

 

僕は今まで、少なくとも30回以上、バイト面接をバックレてきた。

電話で応募はするのはいいものの、面接会場に着くや否や、不安が大きくなって、そのままUターンして帰宅するってのを繰り返してきた。

帰り際、臆病が過ぎる自分に腹が立って、

「クソッ!」

と大声でキレ散らかしたことは数知れず。

街ゆく人にすれ違いざまにわざとぶつかったりもした。

この世界の背景が真っ黒に塗りつぶされていて、僕に視線を向ける人全員が敵に見えた。

「僕はもう一生働けないんだ!」と悟り、「それならばいっそ……」と死を意識した。

皆は毎日働いて、その上で苦しさを嘆いているのに、僕はその土俵にすら立てていないことに強い引け目を感じていた。

緊張を和らげるための準備

今までのように前日からガチガチに緊張することもなく、当日も面接開始時刻までボーっと天井を眺めて動けない、なんてこともなかった。

 

午前中は淡々と大学の課題を遂行していた。

興味のない授業は苦痛だが、面白いものはやりがいがある。

キリのいいところで切り上げ、昼食をとり、ようやく身支度を整え始める。

このあたりから、徐々に心臓の鼓動がイヤホンから漏れ出すように聞こえてきた。

歯磨きをしたり、髭を剃ったり、髪をセットして、いよいよ出発――肝心なのはここから。

まず、ストレッチをする――本格的なものではなく、中学の部活でやっていた軽い準備運動的なもの。

身体をリラックスさせ、副交感神経を優位にする。

次に深呼吸。

呼吸が浅いと緊張しやすくなる。

深く息を吸って肺を目いっぱい酸素で満たし、ゆっくりと吐く。

最後に筋トレ。

腕立て伏せで身体を限界まで追い込み、自分の中に眠っている内なる生物的な本能を呼び覚ます。

事前に心臓の音を鳴らすことで、体を緊張状態に慣れさせる目的だ。

以前はこのようなことを全くしておらず、心臓をバクバクならせながらも体は硬直していた。

そんな状態だと真っ直ぐ歩くのがやっとで、とてもじゃないけど勇猛果敢に挑もうという気にはなれない。

身体を動かし、細かいことを考えないようにするのが大事である。

精神薬は意味がない

以前、精神科で処方された薬(抗不安薬抗うつ薬)は使わなかった。

何しろあれは症状を少し緩和させるだけだったから。

確かに動悸を少し抑え、赤面の度合いを弱めた。

だが、僕の『逃げ癖』は全くといっていいほど治らなかった。

何かに頼ろうとするその姿勢こそが、上っ面では変わりたい変わりたい言っていても、内心では変化を拒んでいることに他ならない。

人は「行動すること」でしか何かを成すことはできない。

どんな手段を用いてでも動くこと。

精神薬なんて、副作用はあれど大した効果はないし、所詮対症療法に過ぎない。

社会不安障害(社交不安障害・対人恐怖症)は、本質的には自分がどう考え、そしてどう動いていくかにかかっている。

赤面しても、表情が引きつっても、声や手が震えても、噛んでも、涙が出たとしても、何にも悪くない。

相手だってそれが原因で嫌ったり馬鹿にしたりはしないだろう。

もしそんな奴がいたら、その時は拳で分からせるしかないかもしれないが、基本的に人は弱者に優しいものだ。

人の優しさに甘えてみる。

そしていつか、他の誰かに優しさを与える。

そうして「愛」は循環していく。

いよいよ面接に向かう

入念な準備を一通り終え、時計を見ると時間が差し迫っていたため、慌てて家を出た。

マスクをすると息苦しくなり精神が不安定になるから、素顔をさらけ出し、堂々と道を闊歩した。

「マスクしろよ……」と言わんばかりの表情を向けられていたが知ったことか。

こっちは命がかかってんだ。

働くか死ぬか。

究極の二択を迫られてんだよ。

僕の勇姿をその目に焼き付けろ。

 

そしていよいよ面接会場に到着。

今までだったらここで足がすくみ、泣く泣く逃げ帰っていただろう。

今回も、背中が押しつぶされるくらいの恐怖感がずしんと乗ってきた。

「帰りたいな……。また次があるよね……。帰ろう……」

と悪魔が囁いた。

僕は、

「ここで逃げたらまたおんなじこと繰り返すだけだろ! 変わるんじゃなかったのかよ! そんなに親の泣く顔が見たいのか?」

と、雑念を払った。

「お前なら行ける! 失敗しても誰も責めやしない! 堂々と乗り込んでいけ!」

自分を鼓舞して、階段を駆け上がった。

完璧な対応ができた

マスクをつけ、ドアを開けると、お客さんが並んでいた。

一瞬戸惑ったが、カウンター付近を歩いている店員に声をかけた。

「4時から面接予定のみぃです。面接に参りました」

そう告げると、

「少々お待ちください」

と言われ、座っているお客さんの向かい側に立った。

待っている間、家族連れのそのお客さんは、僕のことを見てか、バイトの面接がどうたらと話していた。

僕も客として飲食店に行くと、たまにバイト志望の子に出くわすときがあるが、そのたびに親に

「ここ良いんじゃない? あんたに向いてそう。そろそろ働いてみたら?」

と言われるもんだから、そういうことに劣等感と憧れを感じていた。

だから、自分がそちら側になってみて、少し誇らしく思った。

 

マスクを取って笑顔の練習をしていると、担当の人が出てきた。

一瞬、満面の笑みの僕と目が合ったが、特に反応はなかった。

空いている席に座り、面接シートとやらを書くことになった。

書き終えるたらまた呼ぶという形式だったから、その間に精神を安定させることができた。

誤字脱字しまくり焦ったが、そのまま提出した。

その簡易的な履歴書のようなものを見ていろいろと質問された。

バイト歴がほぼないことや、サークルに入っていないことなどをちゃんと答えられるか心配だったが、何の問題もなく進められた。

バイトに関しては、短期バイトをちょこちょこやっていること、3日でやめたコンビニを3ヶ月やったことにして、やめ方も引っ越しで仕方なくやめた体にした。

3年生ということもあり、就活のことを聞かれた際、思い切って

「1、2年の時に結構単位落としてるので、留年が確定してるんですよ。だから実質2年生だと思ってください」

と言ってみたら爆笑してくれた。

そこから世間話が弾んだ。

やっぱり自己開示することは大切だなと思った。

秘密があるとそれを隠し通すのに苦労してストレスが溜まってしまう。

でも隠し事がないとずっと気が楽になるし、相手もこちらが歩み寄ってくれていると感じるから、心の距離がグッと近づく。

これからもこの調子で、何も後ろめず、心を丸裸にして生きていきたい――無論、衣服はしっかり纏うが。

帰り道、嬉しくて発狂した

帰り道、長年苦しんできた「逃げ癖・面接バックレ癖」に打ち勝ったことで、充実感と達成感に包まれた。

嬉しさのあまり、家に着くまで

「キモチェェ~! 人生最高! 報われた!」

と叫びながら走っていたため、とても目立った。

歩道を歩く人から、信号待ちの車の中から、奇妙なものを見るかのように向けられたおびただしい数の視線は、高揚した心に気持ち良かった。

今までは、自分に対する絶望や失望、そして怒りから叫んでいたが、まさか喜びで叫ぶ日が来るなんて。

「今までの失敗、全部意味があったんだ!」

と、人一倍苦しんだおかげで人一倍喜べたことに感謝。

飛び跳ねて、声上げて笑って、奇声上げて疾走したから、声が枯れ果て、疲労感が募った。

「キェェェーーー! やったーーー! ヒャッホーーー!」

「よっしゃーーー!」

ガッツポーズして喜びを爆発させた。

家のドアを開けるまで続けていたから、親に

「一体何事?!」

と驚かれた。

バイトの面接に行ったこと伝えると、一緒に喜び、そして褒めてくれた。

夕飯時には、父と久しぶりの酒を交わし、お互いをたたえ合った。

大きな一歩を踏み出した

今まで何十回と逃げてきた。

バックレを繰り返すたびに、自己肯定感が削がれていった。

自分の無力さに打ちひしがれ、その先の人生に絶望して死のうと思った。

「一度逃げ癖がついたら一生治らない! 死んで生まれ変わって、一からやり直すしかない!」

と思い詰めた。 

 

いくら追い込まれても、僕は動けなかった。

いくら待てども、僕は変わらなかった。

度を越えた逃げ癖は、風邪をこじらせたときのように寝て待てば治る代物ではなかった。

むしろ安静にすればするほど、どんどん悪化していく。

何かを変えるには動くしかないのに、頭の中で色々考えてそれで満足していた。

誰よりもバイトの求人を見て、自分が働いてる姿を想像したよ。

それで努力した気になってた。

家の中ではいつだってやる気に満ちている。

けれども外に出た途端、妄想も虚飾も誇張も抜きの、ありのままの自分が顔を出す。

そこで家に逃げ戻って妄想に浸るか、戦地に赴いて前線を担うか、選ぶのは他の誰でもなく、自分だ。

 

これまではひたすら逃げて逃げて逃げ続けてきた。

終いには死に逃げようとした。

でもこれからは違う。

僕はもう二度と逃げない!

大きな大きな一歩を踏み出せたんから。

この一歩は、自分史に残る大いなる一歩だ。

歩き出せた自分に祝福を。

そして僕に愛を注いでくれた家族に、あらためて感謝を。

死ななくてよかった……!

本当に生きててよかった。

高所から飛び降りなくてよかった。

人生を諦めきれなくてよかった。

死に逃げなくてよかった。

死ぬ勇気がなくてよかった。

死ねなくてよかった。

死ななくてよかった。

 

これから生きていく中で様々な障壁にぶつかると思うけど、きっと僕なら乗り越えていける。

そう確信した。

恥も外聞も世間体もない。

惨めだっていいじゃない。

馬鹿にされたっていいじゃない。

汚い面で堂々と突き進んでいこう。

もうこの世界に、怖い物なんて何一つありはしない。

今起きる不幸は、いつかの幸福をより美味しくするスパイス。

失敗こそ人生の醍醐味。

苦しみを味わってきたからこそわかる、人生の味――