アルバイトの面接にはちゃんと行けるようになった。
嫌なことがあっても、通りすがりの人に肩をぶつけたり、舌打ちしたり、因縁をつけたりといった八つ当たりもしなくなった。
僕は確実に成長している。
でも……まだ働けない。
お金が必要だし、人と関わって対人恐怖を克服しなくちゃいけないのに。
こんなところで足踏みしてる場合じゃないのに!
面接は行けるようになった
バイトの面接は、いまだに逃げ出したくてたまらないけど、頑張って行った。
採用担当者からの質問にもスムーズに答えられた。
やはり大学3年生にもなると、就活で忙しかったり卒業までの1年半しか働けないため、なかなか受かりづらいと聞いた。
そこで、採用される可能性を少しでも上げるために、バイト歴を偽った。
3日でやめたところを半年働いたことにしたり、1日でやめたところを1年半働いたことにした。
「(店の名前)? 前にそこで働いてた子がいるんだけど(人の名前)って知ってる?」
と聞かれたときは「終わった……」と思った。
知らないと答えると、
「さすがにそうだよね」
と笑っていたため、セーフ。
危なかった……。
また、「今年の春に一旦就活のためにバイトをやめたものの、先延ばしにしちゃってまだ就活できてない」ことにして、リアリティーを持たせた。
「そろそろ就活を始めようと思ってるんですけど、実は僕、免許持ってないんですよ。なのでそのお金を稼ごうと思いまして」
志望動機も、その場で適当に思いついたものを繰り返し再利用している。
OD未遂
バイトも無事受かり、契約しに店に向かった。
少し早めに到着、物陰に潜んだ。
時間が近づくにつれ、どんどん不安が膨れ上がっていった。
「ミスして怒られたらどうしよう。自己紹介で恥をかいたらどうしよう。陰キャなのがバレて馬鹿にされたらどうしよう」
先のことを妄想して、震え上がっていった。
そして次第に絶望的な気持ちになって
「いつ死のうかな……」
と考え出してしまった。
こうなったらもう終わり。
来た道を引き返し、駅のホームの椅子に座り、うなだれる。
物に当たると負の感情が湧き出てくるのを身をもって学んでおきながらも、スマホを地面に叩きつけた。
電車に乗り、以前見つけた駅ビルの屋上に行き、飛び降りを試みる。
風が頬を撫でた。
「やっぱり怖いな……」
一瞬怯んだ。
でも、僕の未来を想像すると、目の前にある死よりもはるかに濁った世界が広がっていた。
手持ちの精神安定剤8錠(クロチアゼパム4錠+プロプラノロール4錠)を胃に流し込み、天を仰いだ。
「よし、死のう」
そう心に決め、下を見下ろすと――線路があった。
線路への飛び込みは、鉄道会社からの損害賠償請求が家族にいってしまうため、避けなければならない。
それにビルの高さは下から見上げて感じたときよりもはるかに低かった。
飛び降りで死ねる高さには程遠い。
もし自殺しようとして失敗したら、身体的な障害を抱えることになり、今よりもさらに悲惨な人生を送ることになる。
そんなの御免だ!
もっと高いところを探さなきゃ……。
それまで死ぬのはお預けだ。
帰宅途中、足元がおぼつかなくてフラフラした。
乗り物酔いしたような感覚に襲われた。
家に着いてからも眩暈は収まらず、数時間ほど倒れていた。
家族が夕食を終えた後に目が覚め、全くお腹は空いてなかったけど一人で食べた。
――僕はおそらく、OD(オーバードーズ)*1の一歩手前だった。
手持ちの8錠とは別に家に抗不安薬が10錠あったから、それを持ってきていたら今頃病院に搬送されて……。
薬を大量に服薬することで、重大な後遺症が残ることがある。
その場合、自殺未遂と同様、より険しい生活を余儀なくされるだろうから後悔すること必至だ。
どうせ苦しむのなら少しでもその時間が減らせるよう、潔く逝った方がいい。
僕はどうすればいいんだろう
面接に行けるようになった。
見知らぬ通行人に当たり散らしたり、社会のせいにして恨んだりしなくなった。
「僕って本当にダメな人間だな。生まれるべきじゃなかったんだ。早く死にたい……」
って嘆くだけ。
誰が見ても明らかに成長してるよね。
でも、その次の段階――働くというステージになかなかたどり着けない。
契約する日になったら、面接をバックレるのと同じ要領で、店の前までは行くけど結局時間になっても店内に入れず、家に帰っちゃう。
バイトの面接に受かる
↓
契約日にバックレ
↓
死にたくなる
↓
励ましてもらってまた面接を受ける
↓
またバックレ
この泥沼のループにハマりつつある。
毎回
「今回こそは逃げない! マジで頑張る!」
って意気込んでも、数時間後には店の前から踵を返すんだ。
僕は日本一のHSP(繊細さん)
僕は本当に繊細過ぎると思う。
常に周りの目線が気になって仕方がない。
「僕のことなんて誰も見てない!」
って言い聞かせてもダメなの。
街中を歩いていると、僕のことを見た人が心の中で馬鹿にしてるんじゃないかと思って、
「僕のことを見るな! 嗤うな! 蔑むな!」
と叫びそうになる。
至る所から飛んでくる視線が、うるさくて痛くてたまらないのだ。
自分が自意識過剰をこじらせているのは理解しているつもりだが、心はそれをわかってくれずに、身体に赤面やら筋肉の硬直やら震えやらを命令する。
普通の人達みたいに、人目を気にせず図々しく立ち回れる鈍感さがほしい。
もうダメかもしれない……
苦しいよ……。
つらいよ……。
限界だよ……。
もう死んでもいいかな?
だってこのまま生きてたって、どうせまたバックレて死にたくなっての繰り返しだもん。
どんなに自己分析して悟ったように思えても、実際に行動するってなったらそんなこと全部吹き飛んで怖気づいちゃうんだよ。
この先、生きてたって良いことが起こる気配がまるでない。
これからもっと追い込まれて、希死念慮に苛まれて、老いて醜くなるんだ。
だったら、今損切りするようにスパッとこの世界からいなくなった方がいい気がする。
次がある、次があるってやってきたけど、毎回同じ結果に収束する。
もう次なんてないよ。
早く死ななきゃ。
未練が残らないうちに。
*1:薬を過剰摂取すること