約30回バイト面接をバックレた
僕はこれまでに何度もアルバイトの面接をバックレしてきた。
正確には覚えていないが、大体30回くらいやった。
電話やネットで応募して、面接当日に会場の前まで行くものの、怖くなってUターンしてそのまま帰ってしまうっていうのを何回も繰り返してきた。
持ち物だけはちゃんと用意して向かうため、履歴書と証明写真が毎回無駄になった。
交通費もそれなりにかかった。
面接会場にすら行かず布団の中で時が過ぎるのを待っていたこともあった。
去年の夏ごろに工場の短期バイトをした。
その時は、多くの人が面接会場に入って行くのを見て心強く感じ、何とか受けることができた。
面接を受けられたはいいが、働き始めて数時間ほどで耐えられなくなって脱走した。
普通のバイトは僕個人のために時間を作り、最初から最後まで一対一で行うからハードルが高い。
その点集団で説明を受け、その後一人ひとり面接を行うのは気が楽だった。
大学に入学してから何度も面接バックレを行ってきた。
何もそうしたくてしてるわけじゃなくて、 体が自然と逃げに向かってしまうのだ。
脳内であらかじめプログラムが書き込まれているかのように反射的に逃げてしまう。
バックレるたびに自己嫌悪に陥った。
周りの大学生は、当たり前のように大学に通って授業を受けてバイトもしてるのに、僕は大学に行けずバイトもできない。
バイトが続かないというレベルではなく、働く段階にすら到達しない。
面接バックレを重ねるうちに、劣等感が雲を突き抜けるくらいに積み上がっていった。
環境のせいにできなくなった
年末に不登校や奨学金を止められていたことなどが親にばれ、お互いに腹を割って話し合った。
その結果、家族との関係を修復できた。
新しいメンクリに転院し、薬をもらい、2度失敗したコンタクトもつけることができ、何もかも順調にいくように思えた。
これから僕の人生は上り調子で進んでいくんだろうと。
だけど、こんなに環境が整えられてなお以前と同じようにバイトの面接をバックレてしまったら、今度こそ本当の終わりだろう。
これ以上ないくらい道は整備されているのに、転ぶことを恐れて道を引き返してしまったとしたら。
僕の身体は鉛のように重くなって布団に沈み込んだ。
そして、そのまま動けなくなって一日中天井を眺めていた。
ツイッターやブログで威勢のいいことを言ったはいいものの、実力は全然そこに達していない。
気持ちだけが先走って焦燥感が募る。
人生変えてやるんだと意気込んでいたくせに、一向に踏み出せない自分の不甲斐無さに嫌気が差した。
消え去ったと思っていた希死念慮が蘇った。
今死ねば、だらだらと生き続けるよりも幸せなんじゃないか。
中年になって今より醜い姿になったら、誰にも気づかれず床のシミになるのだろう。
あるいは気付かれても、ごみを見るような目つきで処分されるだけだ。
惜しまれて逝ける今こそ、自死を選ぶ最適なタイミングなのではないかという考えが頭の中でぐるぐると渦巻いた。
貯金を使い果たして働かざるを得なくなった
数日間鬱状態が続いたが、悩んでいても埒が明かないからとネットで求人を探した。
良さそうなところに応募したら、メールが来て1週間後に面接を行うとのことだった。
面接までの1週間は病院に行っていた。
眼科、皮膚科、耳鼻科、歯科などだ。
去年の秋ごろから積極的に病院で診てもらっている。
今までは、めんどくさいし、長年病院に行ってなかったから怒られるのではないかという恐怖心から病院嫌いだった。
しかし、健康な体がないと精神も健康になることはないだろうと思い、頻繁に通うようになった。
保険のおかげで通うほど税金を使えるためお得感がある。
とはいえ3割は払うわけで、貯金が急速に減っていった。
その他に食べ物や飲み物などにお金を費やしていたら、いつの間にか貯金は底をついていた。
奨学金の残りがあったから金銭感覚が麻痺しており、湯水のように使っていた。
親に奨学金を渡してから残りのお金を見て愕然とした。
自分の困窮具合に気付いて焦りが生じた。
働いていないのだから金がないのは当たり前だが、今更になって自覚した。
一度金がなくなって何も買えなかったときに、奨学金に手を付けた。
そこから金が無尽蔵に湧き出てくる感覚に陥っていたのだ。
金がないと心の余裕がなくなるという言葉をよく耳にするが、このとき実感した。
働いて稼がなきゃという気持ちになり、労働に対する意欲が高まった。
バイト面接当日
精神薬を飲んで、ちょうどいい時間に家を出た。
面接の受け答えについて少しネットを見たくらいで、それ以外は特に準備や練習などはしなかった。
ある程度緊張はしたが、過度な緊張ではなかった。
近くの店に入り一呼吸おいて、面接の建物に入った。
受付のところに行ったが、セルフレジのため誰もいなかった。
都合のいい言い訳を見つけた僕は、いないなら仕方ないと会員カードを出して客として利用しようと思い操作していたら、ドアから店員が出てきた。
とっさに声が出ず固まっていたら、引き返して中に入って行ってしまった。
おそらく面接に来ているかどうか確認しに来たのだろう。
ここで話しかけるべきだったが、客として機械を操作している僕が面接に来ましたと言うのも変だと思い、何も言えなかった。
利用するときに、名前で面接に来る予定の人だという事がバレて、問い詰められるのが怖くて、利用せずに帰路についた。
帰り道で、もう一生働くことができないと悟り、目に涙が浮かんだ。
働いて途中でやめるのではなく、その前の面接すら行けない。
絶望的な気持ちになり、もう死ぬ以外に選択肢はないと思った。
一生働けないことがわかった
一度壊れてしまった心は、もう二度と元通りになることはない。
どれだけ努力して、変わりたいと願っても無駄である。
心が壊れないようにするのが大事であって、壊れたら何もかもおしまいだ。
これだけ環境が整えられ、あとは僕が勇気を出して頑張るだけだったが、結局以前と何も変わらぬまま時は過ぎ、同じ結果になってしまった。
いくら薬を飲もうが無意味。
逃げ癖が体中に根を張っているから、もう変われない。
何をやっても無駄。
未来に期待なんかするんじゃなかった。
どうせ何やっても同じことの繰り返しなんだから。
労働はおろか、面接にすら行けない人間が生き残れるほど甘い世の中じゃない。
もうそろそろ引き際なのだろう。
これからどうするかはわからない。
するべきことが何にも思い浮かばない。
今はただ、涙をこらえながら布団の中で浅い呼吸をすることで精いっぱいだ。