日記

修学旅行のバスで女子が「卓球部ってダサいし絶対付き合いたくないよね」と笑いながら馬鹿にしてた話

「卓球部ってダサくない?」

そんな心無い言葉が狭い密閉空間に響き渡った。

 

高校に入学してすぐ、修学旅行があった。

歴史を学んだり観光するという目的ではなく、新入生同士が仲良くなるためのものだ。

これは、各々が期待と不安を募らせながらキャンプ場に向かうバス車内での出来事である。

クラスの女子が男の話で盛り上がっていた

僕は全体から見て真ん中より少し前の席に座っており、左隣にはクラスメイトの男子、右には田舎の街並みを映し出す窓があった。

バスの前方は騒がしい女子たちが占拠していた。

彼女らは、最初は記憶に残らない他愛のない話をしていたが、次第に男の話に移り、どういう男がタイプだとか、彼氏のことなんかを話し始めた。

僕は普段聞くことのできない女の本音を知って、不本意ながら興奮していた。

別に盗み聞きするつもりはなかったが嫌でも耳に入ってきてしまう。

「彼氏にするなら何部がいい?」

「やっぱりサッカーじゃない?」

「いやバスケでしょ!」

「テニスも良くない?」

スクールカースト上位に君臨する部活動が挙がっていく。

「私はバレーかな~」

「あーいいね~。そういえばうちのバレー部強いらしいよ!」

流石は陽キャラ、まだ知り合って数日と経ってないのにもう打ち解けている。

後ろの方でも男子の話し声が聞こえるものの、興味がなかったから自然とこっちの話に焦点を合わせていた。

話が盛り上がる中、一人の女が面白がるように

「卓球部は?」

と半笑いの声音で周りの連中に聞いた。

僕は突然矢が飛んできたため思わず身を伏せた。

何を隠そう、僕は中学の時卓球部に所属していた。

あくまで第三者視点で楽しんで聞いていたのに、こちらに矢を向けられるなんて思わなかった。

さっきまで彼女らの話は他人事だったのに、今やもう自分事に変わってしまった。

一言も逃すまいと聞き耳を立てる。

すると

「卓球部はないわ」

「卓球部ってダサくない?」

「オタクしかいなそう」

「根暗でつまんなそうだよね」

と包み隠さずコケにしていた。

目の前で繰り広げられる罵詈雑言に、僕はひどく動揺した。

その様子が隣の男に伝わっていないか心配になってさりげなく横を見た。

彼は手元にある液晶画面に夢中で僕のことなど気にも留めていなかった。

安堵して注意を前方に戻すと

「うちの中学の時の彼氏卓球部だったよ」

クラスで一番目立っていた女がみんなの意見とは真逆の言葉を放った。

それは単に事実を述べたに過ぎず、僕らのことを庇おうとしたわけではないのだろうが、救いの言葉に思えた。

曇り空から光が覗いて地上に差し込むように、その一言で僕の気持ちは晴れた。

他意はなかったと思うけれど、もし周りに卓球部の人がいたら傷つくから助け舟を出したのだとしたら、人間性の優れた人だと思う。

女子が男前な振る舞いを見て惚れてしまう感覚が分かった気がした。

彼女の言葉に他の女子も同調した。

「卓球部でもたまにイケメンいるよね」

「てかうちの中学の卓球部もモテてた人いたわ」

場の空気は一変し、踏みにじられた卓球部の尊厳は取り戻された。

卓球部はモテない 

卓球部が散々貶されてしまったわけだが、悔しいのは彼女らの言っていたことはおおよそ正しいということだ。

僕の中学の卓球部は恋愛と一生縁のなさそうな芋男ばかりだった。

運動できないくせに文化部は嫌だという謎のプライドで入った人が多く、同じ空間にいるだけで陰気臭い非モテオーラが移る気がして嫌だった。

強豪校なんかは、見るからに運動神経のよさそうな明るい性格の人が多い傾向にあって、中には彼女持ちもいた。

けれども大多数はオタクでコミュ障で暗い。

オタク同士では饒舌のくせして、部外者や女を前にすると全然喋らなくなる奴もいた。

社会人で学生時代の部活動の話になったときに、自分が卓球部に入っていたことが恥ずかしくて隠す人も一定数いるらしい。

このように決して世間受けがいい部活ではないし、一生引け目に感じる可能性もあるため、迂闊に入っていい部活でないことは確かだ。

ただ、どんな物事にも全力で取り組む姿は美しい。

君が卓球部で頑張っているのなら、僕は尊敬する。

女の取るに足らない戯言など一蹴して極め抜いてほしい。

女は男を選別している

スクールカーストと女にモテるかどうかは切り離せない。

女に嫌われたり下に見られてしまえば、充実した学校生活を送れなくなる。

僕は女に好意的に思われたことがない。

むしろ嫌われていただろう。

そのせいでまともな青春を味わえず、女性恐怖症になってしまった。

女はいつも僕ら男のことを選別し、格下だと判断すると虐げる。

強いオスには媚びてすり寄るのに僕らみたいな弱い生命に対しては一切の躊躇もなく嫌悪を示してくる。

どこまでも冷酷な生き物だ。

憎らしい奴らの胸元を想像し、枕をそれに見立て、顔をうずめた。

目の前が真っ暗になって、柔らかな圧力を感じながら息を吸い込んだ。

そしてすぐに、埃やダニ、ハウスダストを肺に取り込んでしまったことに気付いた。

苦肉の策として僕は、息を止めた。

心臓が止まるまでこのままでいようと決めた。